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    「和墨」と「唐墨」の違い

    墨は、日本で作られたものを「和墨(わぼく)」、中国で作られたものを「唐墨(どうぼく、からすみ)」といいます。
    成分の配分の割合や製法が異なり、墨色や、墨の伸び、寿命など異なる特徴を持っています。
    どちらが良い悪いではありません。
    それぞれの墨の特徴を理解し、つくりたい作品により適した墨をお選びいただくことが大切です。

    和墨と唐墨

    墨伝来の歴史と、日本独自に変化した和墨

    日本への墨の伝来は、一説には文字の伝来と同じ頃であるといわれています。
    中国における墨の歴史は日本よりはるかに長く、紀元前1500年頃以前の中国殷の時代から墨は始まったとされています。
    それから時代ごとに数多くの製墨家などが台頭するようになり、特に文化大革命前の墨は寿命が長く、「古墨」と言われる名墨は破格値がつく程に珍重されています。

    今日では和墨と唐墨には大きな違いが見られますが、日本に墨が伝来した頃からその差が歴然としてあったわけではないと思われます。
    おそらく、日本と中国の製法の違い、気候風土の違い、紙の発達の違いによって、墨の製法に独特の差が出てきたのだと考えられます。
    日本においては、唐の文化を多大に受けていた時代から、菅原道真の遣唐使廃止宣言によって変わりゆく国風文化の時代の中で書風が変化したことや、
    日本独自で生まれた仮名文化が発展していったことによって、繊細な表現が求められるようになりました。
    繊細な表現に向く墨はどういうものなのか・・・
    書き手や墨磨り職人が共に工夫を重ね、求められる墨を作りだしてきた結果、日本の墨は独自の変化を遂げてきたのでしょう。

    ▲和墨

    ▲唐墨

    煤と膠の配合比率の違い

    墨というのは、煤(すす)と膠(にかわ)に香料を加え、混ぜ固めて作られています。
    和墨と唐墨との大きな違いには、まずこの原料の配合の比率が異なることです。
    それに加えて、膠の種類や粘度の違いが関係しています。

     
    和墨 唐墨
    配合比率(煤:膠) 10:6 10:12
    膠の粘度 高粘度 低粘度
    特徴 墨のおりが早く、強い黒が出せる。粘り気が強い。墨のおりが遅く、黒味が出にくい。粘り気が弱い。

    和墨には粘り気が強い膠が使われているのに対し、唐墨には粘り気は少ないものの膠の量が多く含まれています。
    和墨は煤の割合が多いため墨を磨る時のおり方が早く、強い黒が出せる反面、膠が高粘度であるが故に粘り気も強く感じられます。

    一方で唐墨は、煤よりも膠の割合が多いため墨のおり方が遅く、黒味が出にくい反面、粘度が低い膠なので粘り気が弱く感じられます。
    これには作られる国の風土の違いも影響しています。
    日本の水はほとんどが軟水であるのに対し、中国の水は硬水であることも要因となっています。
    唐墨は、日本の水で磨ると柔らかな墨色となりますが、硬水で磨ると濃墨の色調に深みが増すとも言われています。

    「和墨」と「唐墨」それぞれの特徴

     
    和墨 唐墨
    墨の色 重厚味があり、力強く基線が黒々として素朴で品位と深みがある。淡墨では透明感があり美しい。 素朴さに欠けるが、品位と深みを備えており、やや茶味の墨色。
    墨の強度 割れにくい。 割れやすい。ものによっては頻繁に割れてしまう。
    墨色の力強さ 新しい墨であっても、墨色に力強さと厚みがある。新しい墨では墨色に力強さに欠ける。
    古墨になると力強さと厚みが出てくる。
    墨の伸び 墨の伸びは悪い。墨を枯れさせる必要がある。 墨の伸びが良い。
    にじみ にじみにくい。墨が紙に浸透しにくいため、枯れた紙が必要。 にじみが美しい。墨が紙によく浸透する。
    墨の寿命 寿命は短め。低品質のもので約10年、高品質のもので約50年。
    共に寿命がくると炭素凝集が起こり、膠の分解が激しくなるため墨色に濁りが出る。
    寿命が長い。
    古墨になると力強さと厚みが出て美しいにじみが出て味わい深くなる。

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    まとめ

    和墨と唐墨、どちらが良い悪いではありません。
    用途や目的で使い分けることが多いため、どちらかに軍配をあげるのは難しいですが、唐墨は日本の気候下では頻繁に割れてしまうということがあります。
    これはやはり環境に適した製法で作られているが故に起こることであり、唐墨が悪いということではありません。
    唐墨の古墨は破格値がつく程に珍重されていますし、一方で近年の和墨は企業努力により品質がとても良くなっています。
    それぞれの特徴を理解し、どんな文字を書きたいか、どんな作品に仕上げたいかということをふまえて墨をお選びください。

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